那覇地方裁判所 平成11年(ワ)907号 判決 2000年11月22日
原告(反訴被告)
照屋麻里子
外八名
右九名訴訟代理人弁護士
与世田兼稔
被告(反訴原告)
具志堅晃
右訴訟代理人弁護士
平良一郎
主文
一 原告(反訴被告)らと被告(反訴原告)の間で、原告(反訴被告)らが別紙物件目録(一)記載の土地につき別紙地役権目録記載の地役権を有することを確認する。
二 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地につき、昭和五九年一〇月九日設定を原因とする別紙地役権目録一及び三記載の内容の地役権設定登記手続をせよ。
三 被告(反訴原告)の原告(反訴被告)らに対する反訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。
事実
第一 請求
一 本訴
主文一、二項同旨
二 反訴
原告(反訴被告)らは、被告(反訴原告)に対し、連帯して、平成一一年二月二二日から別紙物件目録(一)記載の土地のうち別紙地積測量図中黄色表示部分(幅員二メートル、地積八三平方メートル)に対する通行地役権が消滅するまで、一年当たり一五万〇六〇〇円の割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張
一 本訴
(請求原因)
1 合資会社首里不動産商事(以下「首里不動産」という。)は、昭和五九年ころ宅地造成をして、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件敷地」という。)上に同目録(三)記載の各敷地権付区分所有建物(以下「本件建物一」などという。)一六戸を含む分譲マンション(以下、マンション全体を指して「本件マンション」という。)を建築した。原告(反訴被告)ら(以下、単に「原告ら」という。また、各原告についても反訴被告の表記を省略する。)は、本件建物一ないし一六を左記のとおり所有し、かつ、それぞれ本件敷地を一専有部分に対し五〇分の一の割合で共有している。
記
本件建物一及び二の所有者
原告照屋麻里子
同三の所有者
原告照屋林一郎
同四の所有者
原告並里真澄
同五、六、一二及び一三の所有者
原告嘉手川重弘
同七、八、九及び一〇の所有者
原告吉浜秀彦
同一一の所有者
原告中村照美
同一四の所有者
原告嘉手川重利
同一五の所有者
原告新垣良輝
同一六の所有者
原告中村敦
うち三、九、一五については各原告がそれぞれ売買により取得したものである。また、その余の各建物については各原告がそれぞれ競売手続(当庁平成八年(ケ)第四七二号)を通じて買い受けたものであり、代金は全額納付済であるが、所有権移転登記は未了である。
2 首里不動産は、昭和五九年六月ころ、所有していた別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件係争地」という。)を公道から本件敷地に至る通路とする予定で本件マンションの建築確認申請をし、同年一〇月九日本件マンションを完成させ、同年一一月二日表示登記を了した上、各専有部分を分譲した。そして、首里不動産は、本件係争地を、本件マンションの住人らに対し、公道から本件敷地へ至る通路として無償で提供していた。
3 米須清重(以下「米須」という。)は、平成八年一〇月七日、本件係争地を競売手続により取得したが、平成一一年二月二二日これを被告(反訴原告。以下、単に「被告」という。)に対し売却した。
4 本件係争地は公道から本件敷地に至る唯一の通路であるから、首里不動産は、本件マンションを完成させた昭和五九年一〇月九日、本件係争地に関し別紙地役権目録記載の地役権を設定したというべきである。
そして、本件通路が本件敷地の通路であることは一見明らかであり、被告は、通行地役権者に対して通行地役権設定登記の欠けつを主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。
5 被告は、本件通路を通行してはならない旨の記載のある立看板を設置したり通行を禁止する旨の記載のある文書を配布するなどして原告らの通行地役権の存在を争っている。
6 よって、原告らは、被告に対し、本件敷地の保存行為として各共有持分権に基づき、通行地役権の確認及び右地役権の要役地につき通行地役権設定登記手続を求める。
(請求原因に対する認否及び反論)
1 請求原因3は認め、1及び2は知らない。
同4のうち本件係争地が公道から本件敷地に至る唯一の通路であることは知らず、その余は争う。
同5は争う。被告は車輌の通行を禁止しているだけである。
2 首里不動産は本件マンション完成の当時本件敷地につき通行地役権設定登記等をしようと思えば容易にできたはずであるのにこれをしておらず、このことからすると本件係争地を本件敷地のための通路とするつもりはなかったのではないかと考えられる。当庁平成七年(ケ)第三三九号事件において評価人が作成した平成八年一一月二〇日付評価書には本件敷地の一部が無道路地と認定されており、本件係争地が本件敷地の通路ではないことが客観的に示されている。
仮に首里不動産が本件係争地を本件敷地の通路として提供し、本件マンションの住人の通行地役権の承役地であることを承諾していたとしても、競売手続によって専有部分を取得した原告らは右通行地役権を承継しないというべきである。けだし、競売は債務者である首里不動産に対する債権者の債権回収手段であるから首里不動産の通行を承諾する意思が介在する余地はなく、よって競売によって右承諾の効果は消滅するほかないからである。
二 反訴
(請求原因)
1 本件係争地のうち別紙地積測量図中黄色表示部分(幅員二メートル、地積八三平方メートル、坪に換算すると約25.10坪)は従前から車輌六台分の指定駐車場として利用されており、通路の用には供されていないから通行地役権は成立しない。
そうすると、原告らは、民法二一一条の趣旨に照らして被告に対し、右表示部分に関する償金を支払う義務を負うというべきである。
2 本件係争地の相当賃料は一坪当たり月五〇〇円であるから、これに25.10と一二を乗じた一五万〇六〇〇円が原告らが被告に対し支払うべき償金の額である。
3 よって、被告は、原告らに対し、民法二一一条の趣旨に基づき、連帯して被告が本件係争地を取得した日である平成一一年二月二二日から本件係争地のうち別紙地積測量図中黄色表示部分(幅員二メートル、地積八三平方メートル)に対する通行地役権が消滅するまで一年当たり一五万〇六〇〇円の割合による償金の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
本件係争地上一部が自動車の駐車に利用されていることは認めるが、その余はすべて争う。
理由
一 本件の争点は、本訴につき、首里不動産が本件係争地に関し別紙地役権目録記載の地役権を設定したか否か、仮に右設定があったとして原告らが通行地役権を取得したか否か、仮に右取得があったとして原告らは通行地役権を被告に対抗できるか、反訴につき、被告の原告らに対する別紙地積測量図中黄色表示部分に関する償金請求件があるか否かの四点である。
二 本件請求原因3、反訴請求原因のうち本件係争地上一部が自動車の駐車に利用されていることは当時者間に争いがない。
右争いのない事実に証拠(甲一の1、2、二、三の1ないし13、四の1、2、五ないし七、乙一ないし三、証人仲村昭夫、同大城眞幸、原告吉浜秀彦本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次のとおりの事実が認められる。
1 首里不動産は、総戸数五〇戸からなる本件マンション(通称をマザキ首里といい、三棟に分かれている。)の分譲計画を立て、昭和五八年一一月一日建築確認(番号八九五号)を取得した後、昭和五九年六月末日竣工予定として広告活動を開始した。そして、本件敷地造成後同年一〇月九日本件マンションを完成させ、同年一一月二日表示登記手続をし、本件敷地の共有持分とともに分譲した。原告照屋林一郎は平成七年三月一一日本件建物三を、原告吉浜秀彦は昭和六〇年三月三一日本件建物九を、原告新垣良輝は平成一一年一一月一五日本件建物一五をそれぞれ売買により取得した。
2 原告吉浜秀彦、昭和六〇年三月三一日本件マンションの一室を取得した仲村昭夫及び同年四月二二日本件マンションの一室を取得した大城眞幸は、それぞれ本件係争地が本件マンションの敷地の一部であり当然その通路として無償で利用できるものと考えて分譲を受けており、その際、首里不動産から、将来通行を禁止する可能性があるなどの説明等もなされなかった。
3 本件敷地は、沖縄県立首里高等学校運動場の北側に存するが、公道からやや奥まった位置にあり、首里不動産は昭和五五年に取得した本件係争地を公道から本件敷地に至る通路として提供した。そして本件マンションの住人等は、本件係争地を右通路として利用してきた。本件係争地の幅員は六メートル一〇センチ内外である。
4 米須は、平成八年一〇月七日、本件係争地を競売手続(当庁平成七年(ケ)第五一二号)により取得したが、平成一一年二月二二日これを被告に対し売却した。
5 本件マンションに関する当庁平成七年(ケ)第三三九号事件において評価人仲本兼徹が作成した平成八年一一月二〇日付評価書には本件敷地の一部が無道路地と認定されている。
6 当庁平成八年(ケ)第四二七号事件に関し、平成一一年一一月から一二月にかけて、本件建物一及び二につき原告照屋麻理子、同四につき原告並里真澄、同五、六、一二及び一三につき原告嘉手川重弘、同七、八及び一〇につき原告吉浜秀彦、同一一につき原告中村照美、同一四につき原告嘉手川重利、同一六につき原告中村敦に対し、それぞれ売却許可決定がされた。これに基づき各原告はそれぞれ売却代金を納付したが、所有権移転登記手続は未了である。
7 本件係争地には、通路としての入り口部分に矢印とともに「マザキ首里」の記載がある案内掲示があり、かつ、被告により「出入口は私有地につき車輌の出入りを禁じます。」との記載がある告知板が設置されている。また、被告は、本件マンションの住人に対し文書を配布して右同旨の告知をしている。なお、本件係争地の西側部分は一部、車輌六台分の駐車場として利用されている。
三 本訴について
1 右二の認定事実によれば、本訴請求原因1、2、4及び5が認められ、同3は当事者間に争いがない。
特に、本件係争地は公道から本件敷地に至る唯一の通路であり、実際に通路として利用されてきたのであるから、本件マンションを分譲する以前から本件係争地を所有していた首里不動産は、本件マンションを完成させた昭和五九年一〇月九日に本件係争地に関し別紙地役権目録記載の地役権を設定したと認めることができる。そして、本件敷地及び本件係争地周辺の状況等を総合すると、被告は本件係争地が本件敷地のための唯一の通路であり、かつ、原告らが実際に通路として利用していることを優に認識できたはずであるから(前記二、5の事実は右判断を覆すに足りない。)、被告は、通行地役権者に対し通行地役権設定登記の欠けつを主張するについて正当な利益を有する第三者には当たらないと解される。そして、右第三者に当たらない者に対しては、地役権者は地役権設定登記手続を請求することができるというべきである。
2 以上によれば、首里不動産は本件係争地に関し別紙地役権目録記載の地役権を設定し、これに基づき原告らは通行地役権を取得し、かつ、右権利を被告に対抗できるというべきであり、したがって、原告の本訴請求はいずれも理由がある。
四 反訴について
1 本訴請求原因のうち本件係争地上一部が自動車の駐車に利用されていることは当事者間に争いがない。しかしながら、前期二に認定した事実によれば、首里不動産が設定した通行地役権の承役地の範囲は本件係争地全体であったことが窺え、他に右範囲に制限があったことを認めるに足りる証拠はない。また、別紙地積測量図中黄色表示部分は不動点の記載等がなく概略図にすぎないというべきである。
2 以上によれば、被告の原告らに対する別紙地積測量図中黄色表示部分に関する償金請求権があるとは認められず、したがって、被告の反訴請求は失当である。
五 よって主文のとおり判決する。
(裁判官・松田典浩)
別紙地役権目録<省略>
別紙物件目録(一)〜(三)<省略>
別紙地積測量図<省略>